ring ring ring
 「おれはさ、ものすごい覚悟を決めてあの指輪を買ったんだよ。今日までご両親に大切に育てられてきたきみを、今度はおれが守っていくんだから、絶対に幸せにしなくちゃって思って、その決意を形にしたものが、あの指輪だったんだ」
 「……わかってる」
 「だったらどうして、おれに何も言わずに簡単に外したりするんだ。プレッシャーがあったのなら、そう相談してほしかったよ」
 「わたしがバカだった。ほんとにごめんなさい」
 わたしは、自分がラクになることばかり考えて、忠信さんの気持ちなんて考えていなかった。唯一考えたことといえば、外していることがバレたら怒るかな、くらいのことで、彼がどんな気持ちで指輪を買ってくれたのかとか、それを軽く扱われたらどう感じるかなんてところにまで考えが及ばなかった。なんて自分勝手な、ちっぽけな人間なんだろう。
 「ごめんなさい……」
 もう一度謝った。涙が落ちそうになったけれど、泣く資格など持たないわたしは、唇をぎゅっと噛みしめた。
 「今日は帰るよ。明日は、指輪してきてくれよな」
 忠信さんは、泣くのを堪えて俯くわたしを残し、静かに席を立った。
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