ring ring ring
 一歩足を踏み出すと、肌を刺すような冷たい風がさっと吹きぬけた。わたしは思わず肩をすくめたが、そっと顔をあげたとき、その寒さも吹き飛ばすほどの輝きが広がる光景に、言葉にならない感動を覚えた。
 「わあ!すごい!」
 ガラス越しに見たときとは違う、目前に迫り来る光の洪水。
 すべての暗闇を照らさんとばかりに輝くイルミネーションは、冷え切って澄んだ空気の中で、より一層映えていた。すごいすごいと連呼して、中央にそびえ立つツリーの元へ来たときには、寒空の下にもかかわらず、わたしは頬が熱を帯びるほど興奮していた。
 ブルーの光を纏った、すらりと背の高いツリーが、わたしを包み込む。
 非日常ならではの高揚感は、仕事の疲れも、次々と子供を産む友人たちへの嫉妬心も、忘れさせてくれた。
 「この店にしてよかった。きっと美波は気に入ってくれると思ったんだ」
 わたしの隣で、忠信さんもツリーを見上げ目を細めている。その眺めが、わたしの幸福感をさらに高めてくれた。
 「日頃の些細な悩み事なんて、どうでもよくなっちゃう」
 「へえ、悩みなんてあるの」
 「そりゃあるわよ、周りはどんどん……」
 結婚して子供を産んで——。そう言いかけて、今のタイミングで彼氏に言うことではないと思い、口をつぐんだ。
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