ring ring ring
 由紀が、わたしの眉間を指差す。
 「力、抜いたほうがいいぞえ」
 知らないうちに力が入って、眉間にシワを寄せていたようだ。
 「う〜……由紀殿の目はごまかせませんなあ」
 「おぬしは顔に出るタイプだからの。何があったのか、言ってみなされ」
 その口調が、ふざけているのにあまりにも優しくて、頭をぽんぽんされてしまったものだから、わたしは不覚にも涙目になってしまった。
 「おやおや、まあまあ、どうしちゃったのかねえ、この子は」
 さっきは公家風だと思ったら、次は昭和の母みたいになった。いちいち芝居がかっているけれど、キャラはブレている。
 「由紀ぃ、わたし、忠信さんに捨てられちゃう」
 そう言ったとき、あの温泉の日のことを思い出した。古田さんが由紀に捨てられると泣き言を言っていた、と忠信さんが話していたっけ。まさかその言葉をそのまま、自分で言うことになるとは思わなかった。
< 71 / 161 >

この作品をシェア

pagetop