ring ring ring
 「捨てられるって……やめてよ、縁起でもない」
 「指輪を外してることがバレて、理由もちゃんと話したんだけど、めっちゃ怒っちゃって。謝ったけど聞く耳持ってくれないの」
 事態の深刻さに、あっさりとキャラを捨てた由紀は、「あ〜……そういうことか」と小さく言った。
 「だったら、ちゃんと指輪して、不愉快にさせてごめんなさいってもう一回……って、何で今日もしてないのよ」
 わたしの指を見た由紀が、首を傾げる。
 「ごめん……」
 「わたしに謝られても困るけど。持って来てるならはめたほうがいいよ。岡田さん、帰る時間までに戻って来るかもしれないし、そのときにしてなかったら、取り返しのつかないことになるかもよ」
 その言葉に、わたしは耳を疑った。
 「戻ってって……、忠信さん、外出中なの?」
 明日は指輪を、と言うくらいだから、当然社内にいるものと思っていた。昨日の段階で翌日は外へ出る日と決まっていたなら、そんなことは言わないはずなのに。
 「聞いてないの?あ、ケンカ中だからメールとかくれないのね。岡田さん、今朝急に千葉の企画展のヘルプに呼ばれて、出て行ったよ」
 「ほ、ほんと?」
 助かった。企画展に行ったということは、直帰になる可能性が高いし、戻って来たとしても19時は過ぎるだろう。
 少し平静を取り戻したわたしは、由紀が仕事に戻ったあと、そのままの勢いで高林くんにメールを送った。
 【今朝はごめんね。留守電聞いてくれたかな。今日は何とか大丈夫そうなので、明日持って来てください。海野美波】
 送信後、すぐに【了解しました】と事務的な返信があった。
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