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 婚約指輪が恋しい?
 いいえ全然。だって、高林くんに預けてから忠信さんにバレてしまうまでの数日間、わたしの気持ちは本当に婚約前のように軽くなったのだから。でも、だからといって結婚がイヤというわけでもないから面倒だ。指輪に束縛されたくないのに、結婚という契約は交わしたい。果たしてどちらが本当の束縛なのか、考えれば簡単にわかりそうなことなのに、わたしはマリッジブルーといううってつけの口実で、自分までもごまかそうとしているに過ぎない。
 「……高林くんの言ってること、わかるよ。わかるけど、それでも今、やっぱり必要なの。だから返してください」
 こんなふうにお願いするしかない自分を、かっこ悪いと思った。わたしは、結婚するにはまだ精神的に幼すぎるのかもしれない。流れに乗っていけば万事うまくいくだろうという甘い思惑で、現実的なことは全部マリッジブルーを言い訳にして考えないようにしていた。そして歯車が狂うと、必死になって元に戻そうとする。それが正しいのか間違っているのかまで考えずに。
 でも、返してほしい理由なんて何でもいい。忠信さんに捨てられたくないのだ。わたしはその一心で、高林くんに頭を下げた。
 「わかりましたよ、まいったなあ、もう」
 呆れたような高林くんの声に頭を上げると、高林くんは苦笑いを浮かべていた。
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