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　もしわたしが客観的に今の状況を見ているとしたら、ため息交じりにこう言うだろう。
　『婚約者がいるのに、ひとり暮らしの若い男性宅にのこのこ出向くなんて、どんな神経してんだか』
　とりわけ仲がいいわけでもなく、職場での関係性も薄い、ただの後輩だった高林くん。バーで偶然出くわして、アルコールの勢いで愚痴をこぼしてしまったあの日から、流れに流れてこんなことになってしまった。
　「どうぞ。散らかりようもないくらい何もない部屋なんで、好きなとこ座ってください」
　通された部屋はよくあるワンルームの一室で、高林くんの言葉通り、部屋の中には必要最低限の家具しか置かれていなかった。
　キッチンでやかんに火をかける高林くんの背中に「おかまいなく」と告げ、わたしは殺風景な部屋のアクセントになっているモスグリーンの２人掛けソファに座った。
　「シンプルな部屋だね」
　「飯食って寝るだけですからね。ごちゃごちゃしてると落ち着かないんです」
　「なんか意外」
　「そうっすか？休みの日もたいてい外に出ちゃうから、ほんとはテレビもいらないくらいなんだけど、現代人としてそれもどうかなと思って最近買ったんですよ」
　あははと笑いながら話す高林くんの声のトーンが、いつもと違う気がする。やっぱり自分の家はリラックスできる空間なのだろう。かたやアウェイの空間にやって来たわたしは、ただ座って高林くんが戻るのを待つ以外にやることもなく、妙に肩に力が入った状態で、お茶を淹れる高林くんの後ろ姿を眺めていた。
　引き締まった体つきであることは、スーツの上からでもわかる。何かスポーツをやっているのか、それともジムで鍛えているのか。３０代になってもこのスタイルを保つことができれば、きっと高林くんはかなりのモテ社員になると思う。