ring ring ring
 「お待たせしました」
 お盆なんていうきちんとしたものこそないけれど、無造作に冷蔵庫から取り出すペットボトル飲料ではなく、湯から沸かして緑茶を淹れてくれるなんて、なかなかのものだ。思えば忠信さんの家に行ったときでも、お茶を淹れるのはいつだってわたしの役目で、こうして男性におもてなしをされるなんて初めての経験だから、ちょっと照れくさい。
 「ありがとう」
 差し出されたお茶は、犬だかキツネだかわからない変な絵が描かれたマグカップだった。
 「うち、湯呑みとかないんで」
 「いいよ、気にしない」
 わたしだって、家では、紅茶だろうが緑茶だろうがコーヒーだろうがココアだろうがオレンジジュースだろうが、同じマグカップを使っている。
 「あったかーい」
 外から来た体には、緑茶の温かさがうれしい。
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