ring ring ring
 わたしたちは、しばらくの間、何を話すでもなくお茶をすすった。早く本題に入りたいと思いつつ、長い沈黙をどう破るかタイミングを見計らううちに、その機を見失ってしまった。テレビでもつけていれば話題もあるのだろうけれど、初めて来る人の家で勝手につけるわけにもいかないし、さっきの、本当はテレビもいらないくらい、という言葉を聞いた後では、言い出しにくかった。
 壁掛け時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。高林くんはわたしの隣に座って、ちょっと前かがみでマグカップを両手で持ったまま、何も話さない。横顔はどことなく愁いを帯びていて、何かを考えているように見えた。わたしがじっと見ていても、気付いていないのか、気に留める様子もない。
 とにかくこのまま座っているだけでは何も始まらないので、
 「高林くん」
 名前を呼ぶと、高林くんはハッとして「え?あ、はい」と前かがみだった上体を起こした。
 「……指輪、なんだけど」
 「あー、そうでした、でも……」
 「え?」
 でも、と言ったきり、高林くんはまた口をつぐんで、わずかに目を泳がせた。
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