ring ring ring
 「指輪のケースとかなかったんで、百均で買った適当なケースに入れちゃってました」
 手渡されたのは、よく売られている、薬とかサプリを入れておくような半透明の小さなプラスチックケースだった。開けてみると、ケースの中にはティッシュが敷いてあり、指輪が傷つかないための配慮をしてくれたのだなとわかった。
 「ありがとう」
 ふわふわのティッシュのベッドの上で、数日ぶりに見る指輪が心地よさそうに横たわっている。そっとつまみあげ、指にはめようとしたとき、高林くんの手がそれを制した。
 「おれ、海野さんをラクにしてあげたくてこんなことしたけど、結局岡田さんと喧嘩する原因作っただけで役に立てなくて、すいませんでした」
 「そんなことない、じゅうぶんラクになったよ。でももう逃げるのは終わりなの。これからは、結婚という自分の将来をしっかり考えなくちゃね。ありがとう」
 「またつらくなったら、おれがいつでも飛んで行きます」
 高林くんが指輪を手に取り、わたしの左手の薬指にやさしくはめてくれた。忠信さん以外の男性にはめてもらう罪悪感の一方で、体温が上がり、心臓の鼓動が速まる自分がいた。
 レストランで見せた強気な目と、ソファでの哀しげな目。高林くんは、わたしに何が言いたかったのだろう。
< 85 / 161 >

この作品をシェア

pagetop