ring ring ring
 あと5分黙っていたら眠ってしまいそうだったわたしの耳に、突然飛び込んできた聞きなれた声。でもその声が発した言葉は、これまで聞いたことがないものだった。
 「え……」
 聞き間違いか、そうでなければテレビの内容に対するコメントか。眠たくて内容をほとんど把握していなかったわたしには、ありえないことではないと思えた。でも現実は、やっぱり違った。
 「美波、おれたち今日で終わりにしよう」
 繰り返される、無情な言葉。忠信さんの視線はまだテレビに向けられたままで、それが余計に、突き放された印象をわたしに与えた。
 「……なんで……そんなこと」
 指輪のことを、改めて怒られるだろうなとは思っていた。でも誠意をもって謝ればきっとわかってくれて、仲直りして、またラブラブに戻れると思っていた。指輪を外したことがバレた日こそ捨てられると思ったけれど、まさか今になって別れ話に発展するなんて思わなかった。
 動揺するわたしをちらりと見て、忠信さんはソファから立ち上がった。
 「さっき、指輪はもう絶対に外さないって言ってくれたことはうれしかったよ。きみのほうから切り出してくれたのもうれしかったし、だから本当におれへの気持ちが切れたわけじゃなかったんだなって思った。でも、逆におれの気持ちが切れたっていうか」
 おれの気持ちが切れたと言ったときの言い方は、まるで、やっぱり今度の旅行は北海道に興味なくなったから九州にしよう、とでも言うかのような軽さで、とても人生の一大事を左右しようとしている人のものではなかった。
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