ring ring ring
 親に相談して決めた、と彼は言う。婚約しているのはわたしなのに。結婚するのはわたしなのに。わたしにひと言の相談もなく、もう決まったことだからと。
 「どういう、ことなの……」
 驚いて、動揺して、別れたくなくて震えたわたしの手が、今度は心の奥底から湧き上がる怒りのような感情で震え始めた。
 忠信さんから体を離し、1歩下がって彼の顔を見上げてみる。忠信さんんは目をそらしたりせず、まっすぐにわたしを見ていた。
 「と……当事者同士の話し合いもなく、親の意見だけで決めてしまえるようなことじゃないよね」
 「もちろん親だけでなく、おれ自身の気持ちも合わせて考えたことだ。美波に相談しなかったのは申し訳ないけど、相談したところでこうして言い争いになるのは目に見えていたから、報告という形にさせてもらうことにした」
 報告だなんて、仕事みたいな言い方はやめてほしい。忠信さんの人生であると同時に、わたしの人生でもあるのだから、とことんまで言い争って、お互いに思いをぶちまけて出した結論じゃないと、わたしは納得なんてできない。
< 94 / 161 >

この作品をシェア

pagetop