ring ring ring
 まるで人が変わってしまった忠信さんは、わたしに背を向けたまま、叫び続けた。
 「きみの手料理なんかより、ママが送ってくれる料理のほうが断然うまいんだ!おれの味覚はママの味で出来ているんだから、そこに結婚前のきみが図々しく入り込むなんて、身の程知らずにもほどがあるよ!」
 ママが送ってくれる料理。
 忠信さんのあまりの豹変ぶりに、かえって冷静さを取り戻したわたしは、その言葉に、はっとした。
 「まさか……」
 台所へ走り、さっき見た冷蔵庫と壁の間に挟まれていた段ボールを引っ張り出す。そこには予想通り、実家からであることを示す配送伝票が貼り付けられていた。
 中身は?忠信さんが言うことを考えてみれば、きっと段ボールの中には母親の手料理が入っていたに違いない。それは、どこへ?
 わたしは、初めて手料理を作った日のことを思い出した。あのとき忠信さんは、わたしに冷凍庫を開けたかと訊いた。開けていないと答えると、安心した顔をしたのを覚えている。その場では、冷凍食品だらけなのを見られなくなかったのだろうくらいに思っていたけれど、その冷凍食品が既製品ではなかったとしたら……。
 わたしは、冷凍庫の取っ手に手を伸ばした。
 「何をしてるんだ、やめろ!」
 忠信さんが走ってきて、わたしの手を掴む。わたしは咄嗟に反対の手で取っ手を引き、冷凍庫の引き出しを開けた。
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