ring ring ring
 わたしの視線の先、ひんやりとした冷気が広がる冷凍庫の引き出しの中には、たくさんのタッパーが、パズルのようにきれいに収められていた。そのひとつひとつに、見覚えのない美しい字で、日付と中身の説明が書かれた紙が貼られている。中には、温め方を記した注意書きが添えられているものもあった。
 片腕を忠信さんに掴まれたまま、わたしはそれを眺めていた。冷凍庫が、早く閉めろとピーピー鳴る。忠信さんが、動かないわたしの腕を離して冷凍庫を押すと、音は鳴りやんだ。
 「くそっ!」
 何に対する苛立ちなのか、忠信さんはそばにあったミネラルウォーターの箱を思い切り蹴った。すると重い箱がずるりと向きを変え、それまで壁に沿っていた側面がこちらを向いた。そこにも、挟まれていた段ボールと同じ配送伝票が貼ってあり、目を凝らすと、送り主の欄に忠信さんの母親の名前があった。
 「……水くらいどこにだって売ってるんだから、自分で買えばいいのに」
 突っ込むべきはそこではないはずだけれど、わたしの頭の中は真っ白になってしまって、予想外の事態にどう反応すればいいのかわからなかった。
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