偽装結婚の行方
いや、いないんだって……

お母さんは、俺が会社とかの外から電話してると思っているのだろう。今は平日の昼間だから普通はそうだ。実は家から掛けてるのだと言えば、その理由を説明しなければいけないが、今の状態でお母さんを巻き込むのは早いと思う。

という事で、


「そうですよね? もう一度掛け直してみます」


とか適当に言い、俺は早々に通話を終えようと思ったが、ふとある事に違和感を覚えた。というのは、やけにお母さんの言い方が断定的だったからだ。


「あの、お母さんはどうして尚美は家にいると……?」

『だって、本人がそう言ってたもの』

「えっ? 本人って、尚美ですか!?」

『普通はそうよね?』

「いつですか? いつ話したんですか!?」

『ついさっきよ? 15分程前かしら……』


なんて事だ。俺がこれだけ連絡が取れずに焦っているのに、お母さんはのんびり(とは限らないが)、尚美と話していたなんて……

嫉妬にも似た変な感情が湧いたが、尚美が無事と分かっただけでも収穫だと思う。居場所は依然として不明だけれども……

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