偽装結婚の行方
「電話は尚美から掛けてきたんですか?」


少しでもお母さんから情報を得たくて聞いてみた。


『いいえ、私からよ。とっても可愛い子供服を買ったのね。それを早く希に着せたくて、それで電話したの』


なるほど……。尚美は意図的に俺の電話に出ないようにしてるのか。くそっ。


「そうですか。それで、尚美は何と……?」

『今日は忙しくて来れないって。だったら明日来てって言ったのね。涼君に運転してもらって……』


明日?

ああ、今日は金曜だから明日は休みかあ。


『もしもし、聞こえてる?』

「あ、はい、聞こえてます。それで、尚美は何て返事したんですか?」

『それがね、“涼に聞いてみないと分からないから”って、怒ったみたいな言い方をしたの。ねえ、来てくださるわよね?』

「あ、はい。それはもう……。あの、尚美はどんな様子でしたか?」

『え? そうねえ、機嫌が悪いみたいで、あまり元気もなかったわ』

「そうですか……」


ま、それはそうだろうな。もし元気だったら、俺はむしろショックだと思う。


「それと……尚美は何か言ってませんでしたか?」

『え? 特には何も……。どうしたの? 何かあったの?』

「あ、いいえ、特には……」

『そう? じゃあ明日ね。本当に可愛らしいお洋服なのよ。楽しみにして?』

「わかりました。では……」


うーん。尚美が無事だという事以外は、取り立てて収穫なしか……


と、その時、ピンポーンというチャイムの音が聞こえた。

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