偽装結婚の行方
尚美が帰って来た!?

俺はそう思って玄関へダッシュし、勢いよくドアを開いた。だが、違った。

名前はど忘れしたが、隣に住んでるお姉さんが、目をまん丸にして立っていた。夜の仕事をしている人らしい。


「てっきりお留守だと思ったから驚いちゃった」

「はあ……」

「はい、回覧板」

「あ、どうも」


お姉さんから回覧板を受け取り、ドアを閉めようとしたところで、俺はハタとある事に気付いた。


「あの、どうして留守だと思ったんですか?」


そう。その事への疑問だ。普段は尚美達がいるはずなのに、なぜ今日は留守だと思ったのか。もしかすると、お姉さんは何かを知っているのではないかと……


「だって、お車は無いし、奥さんはおめかしして出掛けたから、てっきり皆さんでお出掛けなのかなって……」

「ウチのを見たんですか!? いつですか!?」

「け、今朝早くよ? 7時頃かしら」

「どこへ向かって行ったんでしょうか?」

「さあ……。アタシと入れ違いで部屋から出てくとこを見ただけだから……」

「そうですか……」

「あの……こう言っては何だけど、あまり思い詰めちゃダメだと思うの。その内帰って来るから、仲直りして? 短気を起こしたり、暴力なんかもっての他よ?」

「はあ……」


お姉さんから同情されてしまった。俺達が夫婦喧嘩をして、それで尚美が家出したとか思ったらしい。

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