偽装結婚の行方
「そ、そんな事は……」


すかさず尚美さんも親父さんに向かって顔を激しく横に振った。ま、当然ではあるけども。すると親父さんは、


「こんな息子なんで、愛想を尽かしましたか?」


と言った。

情けない言われようだが、今の俺は悪役だから仕方ないと思う。それが事実なら、つまり尚美さんを妊娠させ、『堕ろせ』と言い、長らく尚美さんを放ったらかしだったとしたら、どんな言われ方をされてもしょうがないと思う。俺だって、そんな男は同性として許せないもんなあ。


しかし尚美さんは、


「そんな事はありません。私は今でも涼の事を……」


と言って恥ずかしそうに顔を赤くした。

それは演技のはずなのにそうは見えず、まるで告白されたようで俺まで顔が熱くなってしまった。そして正直なところ、嬉しい気持ちがした。

だが、流れ的には『はい、愛想が尽きました』と言ってもらった方が良かったと思う。なぜなら……


「そうですか。では、息子と結婚してください」


となるわけで、


「いかがでしょうか?」


と親父さんが尚美さんの父親に問えば、


「こちらに異存はありません。なあ?」


となり、尚美さんの母親も「はい」と同意し、俺の横でお袋さんも強く頷いている。

つまり、当人同士を除いた互いの両親の間では、俺達を結婚させるという事で、一瞬にして意見がまとまってしまったのである。


「そ、そんなあ……」


尚美さんはすっかり慌ててしまい、おそらくは自分の発言を後悔しただろうけど、もう手遅れだと思う。

俺はと言うと、不思議と尚美さん程には慌ててなくて、むしろ冷静だ。まだ現実の事として実感出来てない、だけかもしれないけれど。

< 13 / 122 >

この作品をシェア

pagetop