偽装結婚の行方
尚美はそうキッパリ言うので、やはり希ちゃんが俺に似てるっていうのは確かなんだろう。だとしても、ふたつほど疑問が残るんだよなあ。


「尚美ってさ、前から俺の事、知ってたのか?」


その一つはその事だ。だって、いくら希ちゃんが俺に似てるとしても、俺を知らなきゃそれに気付かないわけで……


「悪いけど、俺は今日まで君の事は殆ど、っていうか全く知らなかったんだよね。同期の奴から噂を何度か聞いたくらいでさ」

「その同期の人って、どなたですか?」

「ん? 阿部辰郎っていうんだけどね」

「ああ、阿部さんですね。総務で一緒でした。阿部さんは私の事、何て言ってたんですか?」


尚美は、興味津々という感じでそう聞いてきた。それはそうだろう。誰だって自分が陰でどう言われているかは、気になるに決まっている。


「それはねえ……」


阿部から聞いてた話は決して悪口ではないから、それを言うのは問題ないのだが、面と向かって言うのは気恥ずかしい。


「はい?」

「ん……すごく可愛いって……」

「……やだあ、冗談ばっかり!」

「本当だって。実際……」

「えっ?」

「な、何でもない」


うわあ、何やってんだろう、俺。
あやうく“実際、可愛いよ”って言うところだった……

と言っても、尚美は頬をポッと赤く染めたから、言ったも同然だと思う。そう思ったら、俺の顔もカーッと熱くなってしまった。

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