偽装結婚の行方
「私は涼の事、知ってました」

「え? そうなのか? なんで?」

「だって、あなた有名だもの。社内の女子はみんな知ってると思いますよ?」


尚美は、“何を今更……”みたいな言い方をしたが、“有名”という言葉は聞き捨てられない。自分じゃいつも普通にしていて、特に目立つような事はしていないつもりだが、気付かぬうちに何か目立つ事をやらかしてるんだろうか……


「俺が有名なのか? なんで?」

「それ、本気で聞いてるんですか?」

「え? もちろんそうだけど?」

「自覚ないんだ……」


尚美は何かに感心したかのようにそう呟いた。


「教えてくれよ。俺、ひょっとして何か恥ずかしい事してんのかな?」

「ううん、そうじゃないの。あなたが、その……」

「ん? 俺が、何か?」

「素敵だからです」

「はあ?」

「女子社員の、憧れの的なんですよ?」

「俺が?」

「はい」

「嘘だろ?」

「嘘じゃないですよー。仮に嘘だとしたら、何のためですか?」

「ん……確かにそうだけど……」


驚いたなあ。28年生きてきて、そんな事言われたのは初めてだ。うちの会社って、よほどブ男が集まったんだろうか……

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