偽装結婚の行方
駅に着いた。


「やっぱり家まで送ってくよ?」

「えーっ、とんでもないです。ここまで送っていただいただけで十分ですよー」

「そうかい? それはそうと、思いっきり敬語になってるぞ?」

「そ、そうですね」

「ほら、また……」

「あ、ごめんなさい」

「まあいいや。少しずつ慣れてくれれば」

「はい、じゃなかった、うん」

「それにしても、寒くなったな?」

「そうです……そうだね?」

「あはは、その調子」


駅のホームは日が陰り、吹きっさらしで本当に寒かった。笑った顔が引きつるぐらいに。今年の冬はいつになく寒いと思う。

しばらく待つと、ようやく電車が来た。俺は早く尚美と希ちゃんを暖かい電車の中に入れてやりたくて、ドアが開くやいなや彼女の背中を押した。


「本当にごめんね?」

「それはもういいから、気をつけて帰れよ?」

「うん、ありがとう」

「じゃ、またな?」

「うん!」


尚美はドアが閉まった後も、ドア越しに何度も俺にお辞儀をしていた。


家に戻った俺を、両親が厳しい顔付きで迎えたのは予想した通りだし、当然ながらたっぷりと説教を食らった。

だが、意外にもお袋さんは途中からニコニコしだした。


「経緯は褒められたものじゃないけど、あんな可愛いお嫁さんと孫がいっぺんに出来たんだから、結果オーライかもね!」


なのだそうだ。俺はそれを聞き、胸の奥がチクっと痛んだ。

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