偽装結婚の行方
「ところでさ、その渡辺って人、離婚したとかするとか、そんな噂はないか?」

「ぶっ」


もう少し阿部から渡辺って男の事を聞き出そうとしたら、阿部はすすっていた味噌汁を吹き出しそうになった。


「お、おま、いきなり変な事言うなよ。危うく吹くところだったじゃねえか!」

「それはすまん。で、どうなんだ?」

「渡辺さんが離婚ってか? ないね」


阿部は即答だった。


「なんでそう言い切れるんだよ?」

「だって、あの人の奥さんって役員の娘らしいからな。離婚なんて考えられねえよ」

「ふーん、そうなんだあ。でもさ、誰の娘だろうが、うまく行かない事もあるだろ?」

「たとえそうでも、離婚はねえだろうな。あの人、課長からいきなり部長になったんだぜ? デスク(次長)を通り越してさ。しかも40そこそこで。義理の親父の影響に決まってるさ。それをみすみす手放す奴はそうはいないだろうよ」

「そうかなあ。俺だったらそういうのに興味ねえけどな」

「そういう男は、最初からそんな娘と結婚しないだろ? 愛があるなら別だけどよ」


なるほど……

尚美が言うには、その男は政略結婚をしたそうだ。だったら、最初から出世が目当てなんだから、愛がないから離婚っていうのは矛盾してるよなあ。

って事はだよ。もしかして尚美は、そいつに騙されてんじゃないのか?

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