偽装結婚の行方
「今日は遠いところをすみません。今、お茶をお出ししますね?」


そうお袋さんが尚美と弟さんに向かって言うと、


「こちらこそ……」と言って尚美は後ろの弟さんを振り向いたのだが、


「すぐ始めて早く終わらせたい」


弟さんは憮然とした態度でそう言った。
尚美は、「伸一……」と小さな声で弟さんをたしなめるように言ったのだが、弟さんは無言。尚美は諦めたかのように小さく肩を落とすと、こちらに振り返って、

「せっかくなのですが、すぐに取り掛かっていいでしょうか?」


と申し訳なさそうに言い、お袋さんも、


「あ、はい、それはもう……」


と言って、微かに溜め息をついた。


尚美の弟さん、伸一君というらしいがは、相当にオカンムリらしい。おそらく事の真実を知らず、姉をはらませ、知らん顔を決め込んでいた男、つまり俺に腹を立て、もしかすると姉自身にも腹を立てているのかもしれない。


弟さんの気持ちはよーく解るけれども、厄介な奴が現れたもんだなあ……

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