偽装結婚の行方
伸一君の手前、初めて来たとバレてはいけないし、かと言って来なれてるって感じも何かいやらしいと思うから、淡々とした態度で俺は尚美に続いてアパートの階段を上がって行った。尚美の部屋、すなわち今日から俺も住むことになる部屋は2階らしい。


玄関から入るとまずキッチンがあり、そこを通ると6畳ほどの和室があった。ベビーベッドや整理ダンス、テレビ等々があり、正直言って窮屈そうだ。

その部屋の隣に推定4畳半の洋間があり、そちらは空っぽで何も無い。どうやら俺のためにそっちの部屋を空けてくれたっぽい。

案の定、俺の荷物はそっちの部屋に運んだ。折り畳みベッドを伸ばし、その上に布団を乗せたら、広いとは決して言えないまでも、隣の6畳間よりは明らかにスペースが空いている。


「尚美、そっちの部屋の整理ダンスをここに移動したらどうだろう?」


と、俺は部屋の隅を指差して言ってみた。


「えっ? でも、こっちが狭くなっちゃうし、それに……」


と尚美は赤い顔をして口ごもった。ああ、中には尚美の下着とか入ってるから、こっちに置くのは恥ずかしい、って事だな。

それは理解したが、伸一君の手前、夫婦でそれはおかしいから、


「考えたら俺の着替えを入れる所が無いんだよね。だから、共同にしないか?」


と平然と言うと、


「それもそうね。じゃあ……」


と尚美は渋々了解し、伸一君に手伝ってもらって整理ダンスを4畳半の部屋の隅に移動した。


「うん、いい感じじゃね?」


それでいくらか6畳の方に余裕が出来、上手くバランスが取れたと思う。


「姉貴、俺は仕事に戻っていいかな?」


俺が一人悦に入ってると、伸一君がそう言った。

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