偽装結婚の行方
「うん、いいよ。今日は本当にありがとう。忙しい最中に手伝ってもらっちゃって……」


なんと、日曜だというのに伸一君は仕事だったらしい。その合間、もしくはその前に俺の荷物を運んでくれたのか……


「じゃあ」


と言って去って行く伸一君に向かい、俺も「ありがとうございました!」と礼を言って頭を下げたのは言うまでもない。伸一君には無視されたけれども。


「ごめんなさい。弟が失礼な態度ばかりとって……」

「いいって。俺は全然気にしてないから」


伸一君を送り出すとすぐに尚美は申し訳なさそうに言ったが、俺はちっとも気にしなかった。伸一君にとって俺は姉をたぶらかした不埒な男だから仕方ないと思うし、むしろ彼については姉思いで逞しい好青年という印象が残った。


さて、次は何をすべきかな、なんて考えていたら、


「あの、希を迎えに行っていいかしら?」


と、やはり申し訳なさそうに尚美が言った。実家へ行き、そこに預けた希ちゃんを迎えに行くという事だろう。


「うん、行こうか?」


俺は努めて平静を装い、そう返事をしたのだが……


「ううん。私だけ行って来るから、涼はここにいて?」


と言われてしまった。俺、顔に出ちゃったのかなあ。緊張したのが……


尚美の実家に行けば、また尚美のお母さんと、もしかするとお父さんとも再会する事になると思う。伸一君と同じくあの人達も俺を快く思ってないわけで、何を言われるかわからない。それを思うと正直、気が重い。そんな俺の気持ちを、尚美は察してくれたのかもしれない。

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