偽装結婚の行方
それにしてもあのメッセージの意味は何なんだろう。『今日のところは私に話を合わせてください』って、どういう事?

タイミング的に考えると、親父さんに呼び戻された事と関係があるのだろうか。河内尚美さんが家に来てるとか?

だとしても、いったい何のためだ?
うーん、ちっともわからん。


ドアノブに手を掛けたら鍵は掛かっておらず、ドアを開いたら、玄関に3足ほどの靴がきちんと並べて置かれていた。来客があるらしい。男物の大きな靴が1足と女物のが2足だ。


誰にともなく「ただいま……」と言いながら靴を脱いで家に上ると、余所行きを着た姉貴が香水の匂いをさせながら現れた。


「あらま。帰ったのね?」

「姉貴は出掛けるのか? デート?」

「違うわよ。友達と映画を観るの。それよりあんた、大変な事になったわね?」

「えっ、俺が?」

「当たり前でしょ? お父さんから聞いてないの?」

「いや、全然……」

「あ、そうなんだ。それにしてもあんた、大人しそうな顔して、影じゃやる事やってんのね?」


姉貴のやつ、そんな訳の分からない事を言ってニヤッと笑った。


「はあ? 意味わかんねえ。何だよ、“やる事”って……」

「まあ、いいんじゃない? あんたもいっちょまえに男だったって事だもんね?」

「ますます意味わかんねえよ……」

「ま、向こうに行けばわかるわよ。言ってみれば、いわゆる“年貢の納め時”ってやつだわね?」

「はあ? それはどういう意味だよ?」

「とにかくみんな待ってるから、早く行きなさい。じゃあね」


とか言って姉貴は手をヒラヒラさせ、自分はさっさと家を出て行ってしまった。

なんか知らないけど、すげえ嫌な予感がするんですけど……

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