偽装結婚の行方
「涼、大丈夫?」


と言う尚美の声がし、俺はゆっくりと目を開いた。すると、常夜灯だけの薄暗い中、尚美の白い顔が目の前にあり、その大きな目が俺を見つめていた。

これは夢だろうか……

実際、このところ尚美の夢を見る事がある。だが、ほのかにボディソープの香りがし、彼女が発する体温まで感じるから、これは夢なんかじゃないと思う。


俺がボーッとしていると、おでこに小さくて温かくて柔らかい何かがそっと触れた。


「熱は無いみたいね?」


それは尚美の手の平だった。


「熱?」

「どこか具合が悪いの?」


尚美は、さも心配そうな顔でそう言った。なるほど、俺が早い時刻に寝ようとしたから、具合が悪いのかと心配してくれているらしい。


「大丈夫だよ。ただ眠くなっただけさ」

「そう? このところ元気がないから、具合が悪いのかなって……」

「そんな事はないよ。心配してくれてありがとう」

「ううん。ならよかった。起こしちゃってごめんね? おやすみなさい……きゃっ」


尚美は立ち去ろうとしたが、次の瞬間俺の体の上に倒れ込んできた。なぜなら、俺が彼女の細い腕を掴み、引っ張ったからだ。

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