偽装結婚の行方
「涼……?」


しまった……。とうとう俺は手を出してしまったらしい。とっさに、無意識の内に、反射的に……

今、俺は布団越しではあるが、尚美の体の重みと、その柔らかな感触を自分の体で感じている。そして、彼女の洗い髪から漂う甘いリンスの香と、同じく甘い吐息を胸に吸い込み、目眩を起こしそうだ。


『何やってんだよ! すぐに謝って手を放せ!』


そう心の声が叫んでいるのに、体は言う事を聞こうとしない。


「涼……?」


尚美の頼りなげなか細い声で、ようやく俺は理性を取り戻し、


「ごめん」


と謝って尚美の腕から手を離した。ところが……

なぜか尚美は俺の上に被さったままだった。そして俺の目をジッと見て、


「したいの?」


と言った。まるで幼子(おさなご)に話し掛けるような、優しい声音で……

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