偽装結婚の行方
「……え?」


一瞬遅れはしたが、尚美が何を“したいの?”と聞いたのかはすぐに解った。もちろんアレに決まっている。お互い大人の男と女の、この状況なのだから……

しかし、まさかそんな事を尚美から言われるなんて夢にも思ってなかったから、俺はどう答えていいか分からなかった。いわゆる度肝を抜かれた状態。おそらく口は半開きで、アホみたいな顔をしていたと思う。


「いいよ? しても。私なんかでいいのなら……」


続けて尚美はそんな事を言い、思わず俺はその言い方に反応してしまった。


「“私なんか”なんて言うな。君は……すっごく可愛くて、綺麗だ。お、俺は……」


“君が好きだ”と言いそうになり、寸前でそれを堪えた。それは、決して口に出してはいけない言葉だから。そして、


「いいのか? だって、君には……」


“好きな人”? “恋人”? いや、“フィアンセ”かな。

何て言っていいか迷うが、とにかくそういう男が尚美にはいるわけで、俺はそれを言おうとしたのだが……


「言わないで!」


尚美は小さくそう叫ぶと、文字通り俺の口を封じた。彼女の柔らかく、熱い唇で……

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