偽装結婚の行方
「だってさあ、嘘くさくない?」

「ちょっと待てよ。尚美の話が作り話だってか? 何のためだよ?」

「そりゃあ、あんたとくっつくために決まってんじゃん」

「まさか。そんな訳ねえだろ?」

「どうして?」

「どうしてって、俺達は口も利いた事ないんだぜ?」

「そんなの分からないじゃん。あんた達、同じ会社だったんでしょ? あんたがその子を意識してなくても、あっちは遠くからあんたの事見てたのかもしれないでしょ?」

「その可能性はなくはない、かなあ……」


その筋書きは、正に俺が阿部を騙すために考えたものと一緒だった。でもなあ……


「やっぱりないな。そんな、すぐバレるような嘘をつく訳がない」

「そうでもないんじゃない? このままズルズル続けてさ、終いには“男と別れたから、本当に結婚してください”なんて言いだすんじゃないの?」

「えっ?」


そういう結末を、俺は意識して考えた事はなかった。ただ何となく、いつまでも続けばいいな、とだけ思っていた。尚美が嘘をついてるとは思えないが、だとしてもそうなる可能性は十分にあるわけで……


「何ニヤケてんのよ?」


しまった、顔に出ちまったらしい。でも、そうなれば俺としては本望なんだよな……

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