偽装結婚の行方
この赤ん坊は生後どのくらいなんだろうか。俺、その辺りの事は全く知らないからなあ。それはさて置き、河内尚美さんの子どもなのか?

きっとそうなんだろうな。あまり彼女に似てるようには見えないが。でも目がクリクリして、可愛いなあ。なんて考えていたら……


「涼、お久しぶり」


河内尚美さんらしき女性がいきなりそう言って俺にニコッと笑いかけた。


「えっ?」

「やだあ。尚美の事、忘れちゃったの?」


俺が唖然としていると、彼女は続けてそう言い、すがるような目で俺を見た。

忘れたも何も、最初から面識ないもんなあ……。ああ、そうか。河内尚美さんは、わざわざ名乗って俺に自己紹介をしたわけだな。そしてそのすがるような目は、メールで言っていた“話を合わせる”事を俺にお願いしているに違いない。

うーん、何だか分からないが、彼女は大真面目で必死みたいだから、話を合わせてあげるとしようかな。


「そ、そんなわけないだろ、尚美。久しぶり」


俺はそう言って作り笑いを顔に浮かべた。生まれてこの方、芝居なんてした事がない俺だが、うまくみんなをごまかせるだろうか……

< 8 / 122 >

この作品をシェア

pagetop