偽装結婚の行方
ぐっすり眠った後のたぶん朝方。隣に尚美が寝ていると思い、俺は彼女の体をギューッと抱き締めた。ちょっと骨っぽく感じ、これまでの感触と少し違う印象だが、確かに女性の体を俺はこの腕で抱いている。

待てよ?

俺は尚美のアパートを出たんじゃなかったか? それともあれは夢だったのだろうか。悪夢とも言うべき、悪い夢だったのか?


それを期待しながらパッと目を開けたら、目の前に顔があった。だがそれは、愛しい尚美のそれではなく……


「ま、真琴!? な、なんでおまえが……」


薄暗いながらも、見まごう事なく真琴だった。なぜか俺の横で寝ていた真琴を、俺は抱き締めていた。尚美だと思って。もちろん、すぐに体を離したけれども。


「ん……うるさいなあ。起きたの?」


真琴も目を覚まし、しゃがれた声で言った。


「おまえ、なんでここに居るんだよ?」

「仕方ないでしょ? 布団はこれしかないんだから……」

「ああ、そっか。ごめん」


そう言って俺は起き上がろうとしたのだが、それを制するように真琴が俺の体に腕を回してきた。


「真琴……?」

「まだ起きる時間じゃないでしょ?」

「いや、しかし……」

「寒いから……」


鼻に掛かったような声でそう言うと、真琴は俺にギューッと抱き着き、体を押し付けてきた。

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