偽装結婚の行方
俺は真琴が言った最後の言葉が気になった。“あの子”とは誰だ? 思い当たるのは尚美しかいない。だとすると、尚美が女っぽいという事を、なぜ真琴が知っているのだろう。会った事もなく、俺から聞いた事もないのに……


「真琴、おまえもしかして尚美に会ったのか?」

「あ、会ってないわよ」


真琴は否定したが、噛んでるし、一瞬ハッとした顔をしたのを俺は見逃さなかった。


「嘘だね。会ってないなら、どうして尚美が女っぽくて可愛いって事、おまえが知ってるんだよ?」

「“可愛い”なんて言ってないでしょ? あんな子……」

「あはは。引っ掛かったな?」

「あっ……」

「いつ、どこで会ったんだよ?」

「お、一昨日よ。昼間にあのアパートに行ったのよ。仕事を抜け出して……」

「おまえなあ……」


そうだったのかあ。真琴は暮れに尚美のアパートの場所を覚え、俺が会社に行ってる昼間、わざわざ会社を抜け出して尚美に会いに行ったわけか。呆れたぜ。


「おまえ、尚美に何て言ったんだよ?」

「何って、あたしは当然の事を言ったまでよ? 嘘ついて涼を縛るのはやめろ、って……」

「何て事を……。それで? 尚美は何て言ったんだ?」

「“嘘じゃありません”とか言ってた。でも、“すぐに結論を出して、これ以上涼に迷惑を掛けないようにします”って言ったわ」


ん? という事は、尚美の言葉をそのまま鵜呑みには出来ない、って事か?

つまり、相手の男の離婚が決まったというのは、嘘だった可能性があるのか!?

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