偽装結婚の行方
「あの、どういう事で……」


渡辺部長の言ってる事が俺にはさっぱり解らず、それを聞こうとしたのだが……


「君は尚美の話が本当かどうかを確かめるために、わざわざ私に会いに来たんだね？」

「そ、そうです」

「なぜ？」

「なぜって、それは……」


もし尚美の話が本当でなかったら、俺は尚美を諦めない。俺の想いを彼女に告げ、偽装結婚を本当の結婚にしたかった。今やそれは叶わぬ事ではあるが。それを部長に言える訳もなく、俺は答えに困ってしまった。


「すまん、余計な事を聞いてしまった。というか、聞くまでもなかったな」

「はあ？ すみませんが、先ほどから何をおっしゃっているのか、よく解らないんですが……」


渡辺部長の言葉もだが、様子も俺には解せない。部長は奥さんと離婚し、尚美と再婚する事を決めたのだから、もう少し晴れ晴れとしても良さそうなものなのに、逆に物悲しく見えるのはいったいどうした事なんだろう。


「まだ解らないかな。私は“遅かった”と言ったはずだが……」

「その意味も、俺にはちょっと……」

「つまり、私の決断が遅かったって事さ。遅過ぎたんだ」

「と言うと？」

「私はね……あの子に振られたんだよ」

「えっ？」

「断られたのさ。キッパリとね」

「えーっ？」


俺は思わず、大声を張り上げてしまった。

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