巨人
 とにかく、巨人に立ち向かう者などいない。遭遇する者の自己責任と言うことで片づけられていた。

 今や都民は巨人の存在は夢物語でしかなく、本当は存在しないのではないかと、一部では囁かれていた。

 だから、早赤夫婦のようにある意味ノンキでもいられるのだ。

 繁華街にきていた早赤夫婦は柿江の買い物を済ませ、行列のできているとんかつ屋に並んでいた。前には十人ほどいて、空腹ではないので、順番待ちをすることにした。

 巨人のことなどすっかり頭の中から消えていた。ここが八階建てのショッピングモールの最上階なので、三メートルある巨人は建物の内部には入れないからだ。間違ってもよじ登って最上階にくることもない。

 早赤夫婦は安心して食事をした。

「そろそろ行く?」

 と、柿江は四分の一ほど残した。
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