ボーイズ・ビー・アンビシャス


カップに口を付けたら、空だった。


「チッ…」


コーヒーを入れにキッチンに降りると、中学生の妹がソファでテレビを見ていた。


「あ、お兄ちゃん」

「なに」

「食べる?ケーキ」


妹の手には、半分ほど食べたチョコレートケーキが乗っていた。
そういえばテレビからはジングル・ベルが流れている。



「今日…クリスマスか」

「そうだよ、なに。知らなかったの?」

「いや…忘れてた」



忘れてた。完全に。


まあ、だからといってとくに問題がある訳じゃないが。



「お兄ちゃん、彼女いないでしょ…」

「うるせーなお前だって家にいるじゃねえか」

「明日デートだもーん」



なんだと。

最近のガキはませてんな。


コーヒーをカップに注ぐ。
ブラック派なので砂糖やミルクは使わない。

単にめんどくさいのもある。



「こんな時間にそんなもん食ってたら太るぞ」

「いーのクリスマスだもん」



そう言って妹はテレビに向き直った。
俺も自分の部屋に戻るため、リビングを後にする。



クリスマスか。


去年は雪が降ったから、クラスの奴らと雪合戦したな。
その前の年は…なんだっけ。バンドの奴らでカラオケか?

まともな恋愛してないからクリスマスを彼女と過ごしたこともないしな。




…今はそんなこと考えてる場合じゃない、か。


カレンダーを見て、日数を数える。
センター試験までもうあと20日もない。

追い込みも追い込み。


試験まで残された時間はあとすこしだった。



使い古した参考書を開く。

書き込みしたせいで見にくい。




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