ボーイズ・ビー・アンビシャス
騒がしさから解放されて、自分の家まですこし遠回りして歩く。
もう夜中なので、家の明かりもほとんど消えていて暗い。
吐くたびに真っ白な息になる。
雪が降りそうなくらいに寒い夜だ。
手の中には、さっきのお守りが握られていた。
最悪だな、あいつら。
しっかりと安産祈願と書かれている。
わかっててやってるんじゃないかとも思ったが、あんなあほどもにわかってたまるか、とも思う。
手のひらの赤いお守りを見ると、不自然にふくれていることに気づく。
まさかちと思い、指でつぶして見るとやはりなにか手応えがある。
「おいおい…」
俺は苦笑しながら、その中に入っていた紙切れを取り出した。
小さく折り畳まれたそれは、きっと急いで書いたのだろう、いつもよりも汚い字だ。
”がんばれ。お前ならできる。なぜならお前はケインだからだ”
思わず吹き出してしまった。
いつか、奴が俺を元気づけてくれたことを思い出した。
「ばかやろ…」
二戸。
馬鹿だ、あいつ。
こんなキザというか…女子っぽいことしやがって。
似合わないにもほどがある。
でも、それだけ俺の受験のこと心配してくれてる。
いい友人に出会ったなと思う。
俺の、進む道を心から応援してくれている。
…寂しい、と言ってたくせにな。
「…ケインは中卒だっつーの」
誰が聞いているわけでもないが、ぼそりと呟く。
夜空は澄んでいて、無数の星がきらきらと瞬いていた。