ボーイズ・ビー・アンビシャス
「なんか、かっこいいよなー」
「博士が?」
言ってすぐデコピンをされた。
「ちっげーよ、お前の名前」
「……」
思わず、黙ってしまった。
二戸は大きな手でシャープペンを持ち直すと、先ほど書いた"志"に、"風"を足す。
"風志"
「んー…よし」
その横になにやらいくつかの漢字を書き始めた。
「俺の子にはお前から志という文字をとってやる」
「…まじか、相当だなお前」
「おう、もう決めた。俺の子には自分のためだけじゃなく、誰かのための”志”を持てるような人間になってもらいたい」
「既にその字を持っている俺はどうしたら…」
「そんなの決まってるだろ」
「え…」
自重気味に呟くと、二戸の返事はいたって明快だった。
「お前も志を持って生きればいいだけだ」
二戸はそれからひとしきり未来の自分の子供のためにかっこいい名前を俺のプリントに書き足していった。
たくさんの、"志"
そこに始めに書いた、俺の名前が埋れている。
でも、なぜだかそこだけ光っているような温かいような。
そう思って触れてみたが、乾いた紙に自分の指が擦れる小さな音がしただけだった。
俺は。
俺は、お前のために”志”を持ちたい。
お前のために、なにかをしたい。
しかしそれは、結局自分のためだ。
そんなのクラーク博士の言う大志ではない。
お前の望むものではない。
お前がかっこいいと言った、俺の名前。
この名前に見合ったものに、なりたい。
そう、強く願った。