偽りの愛は深緑に染まる
見上げるくらいの長身。すらっとした姿は、そのままで雑誌に載れそうだ。
「……お、お疲れ様です」
「お疲れー」
飄々とした口調で返事をしながら、エレベーターに乗り込んでくる。梨沙がボタンを離すと、ドアはゆっくりと閉まった。
14階から1階までの、密室が出来上がった。
会話はない。梨沙はひたすら階数表示を見つめていた。13、12、11……と、ゆっくり数字が減っていく。
8階まできたときだった。
肩をぽん、と叩かれた。この箱の中でそんなことをするのは1人しかいない。
「何ですか?」
できるだけ平静を装う。しかし、次の瞬間梨沙は動けなくなった。
「よいしょっと」
視界がぼやける。かけていた眼鏡を佐渡山にとられたのだ。
「ちょっと、何やってるんですか! 返してください、見えません」
「コンタクト持ってるんでしょ? こっちの方がいいって」
「なんでそんなこと……」
佐渡山は梨沙に近づいて、ひどく性格の悪そうな笑いを浮かべながら言った。
「毎週あの金持ちと何やってんの?」