その結婚、取扱い注意!
渋谷支店から少し歩くと、目的の店が見えてきた。
まだ店があることにホッとし、前まで来ると立ち止まる。

「ここなの」
「えっ? こ、ここ?」

2人は同時にキョトンとした顔になってからすぐに怪訝そうな表情を作る。

「ここでランチ?」

久我さんの瞳はショーケースの中の古びたサンプルを見ている。

「そう。見かけで判断しちゃだめだよ? とってもおいしいクラブハウスサンドがあるの」
「え、でも……」

2人は顔を見合わせている。

「私の好きなところでいいって言ったでしょ? 入ろう!」

私は2人の背後に回って、背中を押した。
仕方なく久我さんは扉の取っ手を引っ張った。

私が案内したのは、退職する日に松下さんが連れてきてくれた喫茶店だった。
あの日と全く変わっていないインテリア。
ふと、松下さんはどうしているだろうかと思った。

店の中へ入ると、カウンターの中にいるマスターに空いているテーブルを指をさされ、私たちはそこへ向かう。

サラリーマン御用達の喫茶店のようだけど、意外なことに禁煙。

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