封船屋
夏への記憶

夏の始まり

私はその日から、時間があれば封船屋を訪れるようになった。
迷惑かとも思ったが、彼女は私が訪ねる度にとても喜んでくれた。

ふうさんは、大抵店の奥にいた。

“こんにちは”と言って入っても、耳が遠いのか奥にいるのか中々出てこなかった。
そんなときは勝手に上がり込んで、部屋の真ん中におかれたアンティーク調の椅子に腰をかけ、店内を眺めていた。


たまにお店にいて、あの椅子に座っているのかと思えば、本を開いたまま寝ていた。
店にいて、まして起きているということは、まれだった。


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