冷たい上司の秘密の誘惑
「何をバカな事を言い出すんだ、光世!」

社長室の中で、怒声が響いた。

…オレが埼玉に支社に行く事を、叔父が怒っている。

当たり前の反応だと思った。

でも、だからって、ここで引き下がるわけにはいかない。


仕事よりも、美穂が大切だと思ったからだ。


今、美穂を失えば、今オレが生きる術を失うのと同じだった。


「すみません、叔父さんが今までしてきてくれた事に、

感謝の言葉しかありません、叔父さんがいたからこそ、

今のオレがあると思います」

そう言って頭を下げた。


叔父は、深い溜息をし、椅子に座りなおした。


「分かっているなら…

なぜ、埼玉に行く必要がある?

このままもう少し頑張れば、専務になるんだぞ?

私だって、もういい歳だ・・・

いずれは、この会社全てを、光世に任せるつもりなんだぞ?

頼むから、期待を裏切るような事はしないでくれ」


「すみません、これだけは譲れません。

例え、専務になれなくても…その先の社長になれなくても、

それ以上に大切な事が出来たんです」


真っ直ぐに叔父を見据えたまま、今の気持ちを打ち明けた。


「…埼玉なんかに、何がある?

お前はずっと本社だけでした、仕事をしてこなかっただろ?」
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