極上エリートの甘美な溺愛
自分はなんて単純なんだろうと思いながらも、この日をきっかけに玲華は建築学部への進学を希望し、早速、親にもその事を伝えた。
たとえ両親から美大への進学を勧められても、自分の思いをわかってもらおうと、覚悟を決めて切り出したけれど、そんな覚悟は不要だった。
「いいんじゃない?理数系が得意なんだから、活かさなきゃ」
両親にそう言われた時には、言葉を失うほど驚いた。
それまで玲華が悩んでいたほど、両親は自分と同じ道を歩んで欲しいとは思ってはいなかったようで、勝手に両親の気持ちを読み違えていた自分が恥ずかしかった。
そして、父が仕事をしている様子を目の当たりにしたことも手伝い、以前から感じていた父への距離感が、少し縮まった気もした。
加えて、それまで二人きりで話す機会はほとんどなかった玲華と将平は、ショールームへ行った日を境に少しずつ二人でいる時間が増えた。
仲のいいグループみんなと過ごす時間の方が長かったけれど、放課後二人で一緒に帰ったり、参考書を買いに行く事もあった。
何気なく玲華の勉強を見てくれたり、親との関係改善を喜んでくれたり。
将平と親しくなり、その内面を知れば知るほど玲華が将平のことを考える時間は増え、それが恋心へと変わるのに、大した時間はかからなかった。
そして、年が明け、二人とも志望大学への合格が決まったのを機に、玲華はこれまでの内気な自分を脇におしやり、将平を学校の屋上に呼び出した。
緊張しています。
と顔中に描いてあるような必死の表情で、震えながら、生まれて初めての告白をした。
「大好きなの。卒業しても、一緒にいたい」
それが、玲華の精一杯。
将平の顔を見る事なんてできなかった。
俯く玲華の視線の先にあるのは、将平の黒い靴だけだった。
そんな玲華に、将平は苦しげな表情を見せ、しばらく考え込んだ。
玲華にとっては永遠とも思える時が流れたあと。
「わるい……」
低い声がその場に響き、玲華の生まれて初めての告白が、実ることはなかった。
卒業式は、それから3日後だった。