極上エリートの甘美な溺愛
すると、意味ありげな表情を浮かべた慎が、もったいぶるような口調で答える。
「篠田さんが契約した『Rin』は青だって言ったけど、さっき電話がかかってきて、シルバーに変更してくれって。好きな女に結婚を申し込むから納車を急いでくれとも言ってたな。玲華ちゃんはシルバーの『Rin』が好きだって言ってただろ?きっと篠田さんのプロポーズの相手って玲華ちゃんだよ。いいのか?今日にでもプロポーズしそうな勢いだったけど」
「プ、プロポーズ?」
「ああ。ずっと近くにいたのにプロポーズする勇気がなかったらしいんだけど、彼女が他の男にかっさらわれる前にプロポーズするってさ」
慎は、将平に言い聞かせるように一語一語はっきりと、そしてゆっくりと話した。
どこか芝居がかっている大げさな口調だとすぐに気付きそうなものだが、篠田が玲華にプロポーズすると聞かされて、将平の思考回路はまともではいられない。
玲華が自分以外の男のものになるかもしれない。
そのことだけしか考えられなくなり、胸の痛みをこらえるように将平はぐっと唇をかみしめた。
玲華に好きだと告白し返事はいつまででも待つと言って、ない余裕を無理矢理見せたとはいえ、他の男のものになるなんて想定外だ。
確かに今の玲華なら、自分以外の男からのアプローチがあってもおかしくはない。
仕事も積極的に取り組み、その自信ゆえか、見た目にも美しさが備わって無敵に近い。
将平のこれまでの恋愛観を否定し、そんな将平の側にいても付き合いが長続きしないのではないかと不安を抱える玲華。
そんな彼女の気持ちを少しずつほぐし、自分を信じてもらおうと考えていたのに。
将平は自分の見通しの甘さに悔しさをにじませた。
「篠田さんと玲華ちゃん、午後から一緒に展示場で仕事らしいぞ。なんでもカップルに大人気のデートスポットにもなってる場所らしいし、そこでプロポーズするとかどうとか……」
将平の目をじっと覗き込み、いたずらを仕掛ける高校生のように、告げる慎。
その表情もまた、将平をからかっているとすぐにわかりそうなものだが、将平にしてみれば玲華のことが気になって、気持ちにも視界にも何も入ってこない。
高校を卒業して以来、ずっと玲華を忘れられなくて、それでいて二度と会う事もかなわないだろうと諦めていた愛しいひと。
凛々しく、それでいて優しく、そして。