極上エリートの甘美な溺愛



恋愛に対する自信のなさが玲華を傷つけ、同時に将平をもつらい時間へと押しやった決断。

高校時代の幼い恋心だといえばそれまでだが、将平にとっては単なる淡い思いではなく、決して手放すべきではなかった恋。

玲華との関係を断ち切ったことによって、将平自身をも苦しめる出口の見えない時間が始まったのだ。

たかが高校生の恋。

されど、一生の愛。

それに気付かず選択を間違えた将平にとって、玲華と再会するまでの時間はあまりにも切ないものだった。

そんな将平を見守ってきた二人だからこそ、奇跡的に再会できた玲華との関係が明るいものに進展するよう、一芝居打ったのだ。

慎は自分たちの仕事ぶりに満足し、安堵の息を吐いた。

大切な同期が幸せを掴もうとしている。

それは二人にとっても幸せな思いを感じるものだと、改めて実感した。

慎は手元のカバンを手にしながら立ち上がると。

「さて、俺もお客様との約束があるから出てくるか。あ、今晩は早く帰れると思うから、俺の部屋で待ってろよ。で、将平に負けないくらいに熱い思いを千春にぶつけてやるからな」

千春の目の前に顔を寄せ、そっと囁いた。

あまりにも近い距離からの言葉に、普段は強気な千春も照れて顔を真っ赤にし、言葉を失った。

「な、なによ、その熱い思いって……。将平にいちいち感化されないでよね」

「いいだろ。俺だって千春のことが大好きなんだからさ」

「そ……そんなこと、わざわざ職場で言わなくても……バカ」

慎は優しいまなざしを浮かべ、更に顔を赤くして俯いた千春の頭を優しく撫でた。

「バカになるほど、俺は千春が好きなんだ。観念して嫁に来い。あ、まずい、今晩言うつもりだったのにな。ま、いっか」

「ま、いっか……って、ば、ばか」

肩を竦める慎を千春は睨みつけ、その胸を握りこぶしで叩いた。

ばんばん叩きながらもその瞳には幸せの涙が溢れ、『ばか』と呟く声にも嬉しさが溢れていた。








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