極上エリートの甘美な溺愛
あっさりと、その理由を言うこともなくふったくせに、どうして今更。
そう思うと、そのことを蒸し返したい気持ちも確かに生まれるけれど。
二人とも、あれから8年分の思い出を重ねてきたという事を思い出し、あえて聞くのはやめた。
もう、過ぎ去ったことだ、将平にだって今では恋人もいるだろうし、聞いても仕方がない。
玲華はぐっと重くなった気持ちに気付かないふりをして、飲み物のおかわりをした。
その後、将平と玲華はどこか気まずい空気を引きずりながら、黙り込んでいた。
すると、玲華の隣から香里の明るい声が割り込んできた。
そんな香里に反応するかのように、周囲からの声が絡み合い、将平と玲華もその輪の中に入っていく。
「ねえ、二次会はどんなことするの?」
「俺ら、会社の同期の二次会をいつもやってるから任せてくれ。店も決まってるし招待客のリストももらったし、買出しやら出欠確認やら細かいことをこなすだけだな」
「へえ」
将平の会社の人たちが、頼りがいのある言葉を次々と落としてくれる。
これなら、二次会は成功しそうだな、と玲華はほっと肩をおろした。
「仕事忙しいのにごめんね。玲華と将平くんがリーダーだから、よろしくね」
香里の言葉に、玲華は目を見開いた。
「リーダー……」
嫌がる気持ちを露わに見せる玲華に、将平は苦笑しながら声をかけた。
「そんな嫌な顔をするなよ。俺は何回かやって慣れてるから、玲華は言われた通りしてればいいから。ま、頑張ろう」
「うん……」
将平と一緒に……か。
長い間忘れていた気持ちをふと思い出してしまいそうで、緊張する。
思えば、初恋。
初めて告白して振られた人。
将平を忘れようとしていた8年分の時間が、自分を守ってくれるだろうか。
不安な気持ちを逃がすかのように、玲華はグラスのビールを一気に飲み干した。
そんな玲華を、将平は面白そうに見ている。
高校生の玲華しか知らない将平にはその様子が新鮮に映るのか、玲華から目が離せない。
すると、突然伸びてきた手に、玲華のグラスが取り上げられた。
は?と玲華が見上げると、篠田が怖い顔をして立っていた。