極上エリートの甘美な溺愛
集合時刻を1時間以上遅れて到着した玲華は、店内を見回し見慣れた顔ぶれを見つけると、小さく手を振った。
「遅れてごめんなさい」
軽く頭を下げながらテーブルにつき、あいている椅子にカバンを置くと、隣にいる香里が申し訳なさそうに呟いた。
「玲華、お疲れ。ごめんね、お客様の家から直行してくれたんでしょ?」
「いいよいいよ。それより遅れてごめんね」
「ううん、大丈夫。あ、彼が私と結婚する志水誠さん。知ってるよね。で、こちらの男性の面々が二次会を手伝ってくれる誠の会社の同期のみなさん」
「遅れてすみません。香里の同期の葉山玲華です」
玲華が挨拶しながら男性陣を見回すと、向かい側に並んで座っている男性の一人がじっと玲華のことを見ているのに気付いた。
「玲華?」
「あ……将平?」
香里の隣に立っている玲華に驚きの声をあげた男性は、手にしていたグラスをテーブルに置いた。
荒々しい音がその場に響き、玲華以外の視線も皆その男性に集まる。
何があったんだと戸惑う周囲に気遣うこともできないまま、玲華は視線を目の前の男性から外せずにいた。
傍らの椅子に腰をおろすこともなく固まっていた彼女に、香里が「玲華―?」と声をかけると、ようやく玲華は口を開いた。
「将平、久しぶりだね」
「ああ……久しぶり。高校の卒業式以来だな」
「うん。元気だった?」
「まあな」
玲華は、将平の目の前の席にぎこちなく腰をおろし俯いた。
突然目の前に現れた男性に、どう対処していいのかわからない。
速くなる鼓動の音を聞きながら、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
玲華の脳裏に浮かぶのは、精一杯の思いで告げた言葉を拒まれたあの時のことだ。
高校の卒業式を数日後に控えたあの日から、それなりの時間を重ね、実ることのなかった恋心はとっくに封印されたと思っていたけれど。
それは大きな間違いだったと気づく。
将平とひとこと言葉を交わすだけで、その封印はあっけなく解かれてしまった。
俯いたまま、その現実に心を揺らしている玲華を、将平はじっと見ていた。
将平の揺れる瞳の向こう側には喜びと不安が行き来し、どう声をかければいいのかと悩んでいる。
「玲華と将平くんって知り合い?」
玲華は香里の探るような言葉にはっと視線を上げ、しばらく間を置いて呟いた。
「……高校の時に私をふった人」
玲華のその言葉に将平はなんの反応も示さず、ただ彼女を見つめ返した。