極上エリートの甘美な溺愛
すると、どこか落ち着かない様子の将平が、まるで探るように言った。
「篠田さんのじゃなくて、俺の『Rin』に乗ってみろよ」
「将平の?」
「そう。まだ、誰も助手席に乗ってない新車だ」
「……乗せる人、いないの?」
「いない」
歯切れよく返ってくる将平の言葉に、玲華の気持ちは少しだけ浮上した。
まだ誰も助手席に乗っていないっていうことは、さっきの綺麗な女の人は、恋人でもなんでもないっていうことなのかな……。
ふと浮かんだ思いに、玲華は慌てた声をあげた。
「乗せる人がいないって、寂しいね」
「だろ?だから、玲華が乗ってくれよ。俺の助手席に」
玲華の顔を覗き込む将平の目は、本気で玲華に助手席に乗って欲しいのか、かなり真剣だ。
まっすぐで強い光を伴った瞳は、嘘はついていないと教えてくれる。
まるで自分が将平に望まれていると錯覚してしまいそうな思いを感じて。
「じゃ、乗ってあげる」
玲華は思わずそう答えてしまった。
ほんの少し前まで抱えていた切ない気持ちが完全になくなったわけではなく、将平の真意はわからない。
けれど、将平の車に乗ってみたい気持ちの方が強くて、どうしても断れない。
というよりも、断りたくない。
将平は、玲華の言葉に大きな笑顔を見せると、思いついたように早口で言葉を落とした。
「今日、仕事のあとで二次会で使う店に打ち合わせに行くけど、一緒に行かないか?」
「今日か……。夕方、お客様の家に行くから9時頃になると思うけど」
「わかった。俺も今日は遅くまで会社にいるし。その頃そこの店で待ってるよ」
将平は、大通りの向かいにある小さなカフェを指差した。
「うん。じゃ、あとで。仕事が終わったら電話するね」
「あ、今日は車で来てないから、『Rin』に乗せる事はできないぞ。それはまた、今度な」
『今度』という言葉の響きに心が温かくなるのを感じ、玲華は隠せない笑顔を浮かべて何度も頷いた。
そして、早く仕事を終わらせなきゃ、と決めて。
玲華は将平に手を振り背を向けると、会社へと急いで帰って行った。