極上エリートの甘美な溺愛
おとなしく、いつも優しい笑顔で周囲を和ませる雰囲気を持っていた玲華の良さはそのまま残っているとはいえ、社会人となり落ち着いた魅力も加わったその表情は更に将平の気持ちを引き寄せる。
身動きできないまま玲華を見つめている自分に気付いた将平は、はっとしたように口を開いた。
「取っ組み合いって、よくあるのか?」
「まさか。普段は滅多に言葉を荒げることはないんだけどね。小学生とはいえしっかり主張してくるから。なるべく希望に沿うように努力するけど、家が倒壊するような設計なんてできないし。難しいの」
「そっか、大変だな」
「うん。でも、楽しいしやりがいもあるからね。頑張れる」
その言葉からは、本当に仕事が楽しいとわかる熱意が感じられて、高校時代の玲華のままじゃないんだな、と将平は改めて思う。
短い時間ではない。
卒業してから今まで、お互いが経てきた時間は、これからの人生の基盤を作っていく大切な時間だ。
将平にとっても、夢を現実のものにしたとはいってもまだまだ下っ端。
自動車会社に就職したからといって、すぐに自動車の設計ができるわけではなかった。
先輩から教えられることを自分のものにし、お客様に喜んでもらえる自動車を設計するという夢の終着点へ向けての新しい生活が始まったにすぎなかった。
そして、ようやく『Rin』という自動車の開発に携われるまでになった。
将平にしても玲華にしても、お客様の反応が直接返ってくる仕事に就き、否が応でも成長しなければならなかった。