極上エリートの甘美な溺愛
それは、玲華が将平に対して抱いていた憧れの気持ちによるものも大きかったのかもしれない。
まだ大人になりきれていない高校生にとって、学校の中で感じることが全てのことであるのは当然のこと。
卒業し社会に出てみれば、学生という枠の中での優位性というものは、さほど意味がないものだと気づいてしまう。
高校時代、何もかもを悠々と極めていた将平だって、卒業後、自分がいた世界の小ささに気付き、全てが自分の思い通りにいくわけではないという現実に苦しんだはずだ。
『手に入らなかったものもある』
将平の口調からにじみ出る焦燥感からも、それは明らかだ。
玲華と全く接点がなかった長い時間をも教えられるようなその言葉に、彼女の胸は、少しだけ、痛んだ。
そんな玲華の気持ちに気付いたのか、将平は「さ、行こうか」とことさら明るく声をかけた。
「うん……」
玲華は、高校時代の自分の気持ちを露わに見せたあの日以来そのことに悩み、今日会うことにもかなり緊張していた。
けれど、迎えに来てくれた将平からは、あの日を思い出させる気まずさは感じられなくて、ほっとした。
きっとそれは将平の気遣いだろうとわかるだけに、申し訳なくもある。
ゆっくりと車を発進させた将平の顔は、当然ながら運転に集中していて、それ以上話しかけられることを拒むようだった。