極上エリートの甘美な溺愛
「じゃ、別れなきゃいいのに」
「絶対別れないっていう保証はないだろ」
玲華の言葉にかぶせるように、将平の声が重なった。
まるで玲華の言葉を頭から否定するような強い声に、ぴくりと震える。
相変わらず視線は前方に向けたまま運転を続ける将平に、何を言えばいいんだろうか。
社内恋愛の話になってから続くぎこちない雰囲気に、玲華はそっと息を詰めた。
すると、車は大通りの赤信号で停まり、将平が大きく息を吐いた。
「せっかくの休みにこうして一緒にいるのに、雰囲気を悪くしてごめん。玲華が言うように、別れなきゃ済む話だよな。俺もわかってるんだけど、これまでのことを前提に考えると……うーん。別れずにつきあい続ける自信はないよな……」
独り言かと思えるような声。
何か思い悩んでいるのか、ハンドルに手を置いたまま、指先はトントンと規則的なリズムを刻んでいる。
男性にしては細く綺麗な指先が、将平の気持ちをゆっくりと整えているように思えた。
目の前の赤信号を見つめながら考え込んでいる様子に、玲華は何も口に出さず将平の言葉が続くのを待った。
将平が恋愛に対して持っている思いは偏っていて、たとえどんな理由があるにしても真摯に相手に向き合わず、気持ちを添わせることのない付き合い方は受け入れられない。
いつか気持ちは離れ、別れると決めつけている言葉には同意できないが、将平がそれを心から楽しんでいるわけではないと感じて、玲華には何をどう言っていいのか、躊躇してしまう。
それに、将平にとって、特別な女の子がこれまでいなかったということを嬉しく思う自分だって誉められたものではない。
将平が曖昧な気持ちで付き合った女の子の切なさや苦しみを無視していることになるのだから。